Sさんへの手紙

Sさんへ

 
 今のあなたは、昔の私を見ているようでハラハラしています。


 でも私はあなたに何もアドバイスできる立場ではないことを心得ています。人生の少しだけ先輩として、何か言ったほうがいいのか、何も言わないほうがいいのか。きっと何か言ったところで他人の話なんて聞き入れないことは私も経験して分かっていますので、何も言わないことにします。

 
 だからせめて手紙を書きます。


 
 Nさんは誰が見ても美人で聡明だと思います。だからSさんに限らず、Nさんの魅力に心が揺らぐのはごく自然なことでしょう。


 しかしNさんから注がれる今の愛情は果たして本物でしょうか?いや、それが本物かどうかなんて、当然当人たちにしか分からないものです。仮にあらゆる壁を乗り越えたとしても、犠牲にしたものが大きければ大きいほど、真の幸せは手に入るものではありません。


 私が人生で犯してしまった罪を、せめて自分の周囲の人には同じ道を歩まないようにしてほしいのです。


 今ならまだまだ、自分を引き留めることができますよ。