エッセイ 「母と娘」

アラサーの6割が母親から料理を習っていないという記事が新聞にあった。私はアラサーではないけれど、まさしくその一人だ。


40歳を過ぎた今でも料理が下手な理由は、そこにある。まだ台所は母親のものだからだ。


私が大学生のとき、「台所を勝手に使われると困る」と母からはっきり言われた。それがトラウマとなり、私が積極的に台所に立つことはなくなった。


私の母がそこまで台所という場所にこだわるのは、ある事情がある。


それは父と母との関係だ。


父と母は上手くいってなかったから、母の居場所は台所しかなかった。母は台所で隠れてお酒を飲んでいたし、自分の大事なものはすべて台所に隠していた。私は台所が母の秘密にあふれていることを小さな頃から感じていたし、そこには私が入り込んではいけないと思っていた。


父が他界して10年経った今でも、やはり台所は母の居場所。


私が料理の練習をするには、自分の台所を持つしかない。